毎月の給与明細に記載される「社会保険料」の金額を見て、その負担の大きさにため息をついている方も多いのではないでしょうか。この見えない支出を少しでも抑えたいと考えるのは自然なことです。この記事では、30〜40代のサラリーマン世帯に向けて、家計のプロが合法的に社会保険料の負担を軽減するための具体的な方法と、実行する前に知っておくべき注意点を分かりやすく解説します。
そもそも社会保険料とは?サラリーマンが支払う内訳
節約方法を知る前に、まずは私たちが何を支払っているのかを正確に理解しましょう。サラリーマンが給与から天引きされる社会保険料は、主に以下の4つで構成されています。
健康保険料
病気やケガをした際の医療費負担を軽減するための保険です。保険料は会社と折半で負担します。加入する健康保険組合(協会けんぽ、組合健保など)によって保険料率が異なります。
介護保険料
40歳になると、健康保険料とあわせて徴収が始まります。将来、介護が必要になった場合にサービスを受けるための保険料で、これも会社と折半です。
厚生年金保険料
老後の生活を支える「老齢年金」や、障害を負った際の「障害年金」、死亡した際の「遺族年金」の財源となります。保険料は会社と折半で負担します。
雇用保険料
失業した際の失業手当(基本手当)や、育児・介護休業給付などの財源となります。保険料の負担割合は、健康保険や厚生年金とは異なり、事業の種類によって定められています。
社会保険料はどうやって決まる?「標準報酬月額」の仕組み
これらの社会保険料(雇用保険料を除く)を計算する上で最も重要なのが「標準報酬月額」です。これは、毎月の給与を一定の区切り(等級)で分けたもので、この等級に応じて保険料が決まります。
具体的には、毎年4月、5月、6月の3ヶ月間に支払われた給与(基本給+残業代+各種手当+交通費など)の平均額を算出し、それに基づいて9月から翌年8月までの1年間の標準報酬月額が決定されます。これを「定時決定」と呼びます。
つまり、社会保険料は単純な手取り額ではなく、税金や手当などを含んだ総支給額によって決まるのです。
【結論】サラリーマンの社会保険料節約は「標準報酬月額」がカギ
社会保険料は法律で定められた保険料率に基づいて計算されるため、給与が変わらない限り、支払う金額を直接的に減らすことはできません。
しかし、前述の「標準報酬月額」の決まり方を理解すれば、合法的にこの金額をコントロールし、結果として社会保険料の負担を軽減する道筋が見えてきます。これから紹介する方法は、いずれもこの「標準報酬月額」を意識したアプローチです。
プロが教える!サラリーマンが実践できる社会保険料の節約方法
では、具体的にどのような方法があるのでしょうか。誰でも実践できる可能性のある、効果的な方法を3つご紹介します。
1. 4月・5月・6月の残業を調整する
最も直接的で効果が見えやすい方法が、標準報酬月額の算定期間である4月・5月・6月の給与を意識的にコントロールすることです。この3ヶ月間の残業を減らすことで、算定の基礎となる給与額が下がり、9月以降の社会保険料を抑えることができます。
項目 | 残業なし(月給30万円) | 残業あり(月給30万円+残業代月5万円) |
---|---|---|
4〜6月の平均給与 | 300,000円 | 350,000円 |
標準報酬月額 | 300,000円(22等級) | 360,000円(25等級) |
健康保険料(月額/自己負担) | 15,000円 | 18,000円 |
厚生年金保険料(月額/自己負担) | 27,450円 | 32,940円 |
社会保険料合計(月額) | 42,450円 | 50,940円 |
年間差額 | – | 101,880円の負担増 |
※東京都、協会けんぽ、令和6年度保険料率で計算(介護保険料含まず) |
もちろん、業務の都合上、残業を全くしないのは難しいかもしれません。しかし、この時期を意識して業務効率を上げたり、不要な残業を避けたりするだけでも、年間の手取り額に大きな違いが生まれる可能性があります。
2. 確定拠出年金(iDeCo)を活用する
老後資金の準備として注目されている「iDeCo(個人型確定拠出年金)」も、社会保険料の節約に繋がる可能性があります。
iDeCoの掛金は、全額が「小規模企業共済等掛金控除」の対象となり、所得税・住民税が軽減されることはよく知られています。しかし、節約効果はそれだけではありません。
会社によっては、iDeCoの掛金を給与天引き(事業主払込)にできる場合があります。この場合、掛金分は給与(報酬)とは見なされず、社会保険料の算定基礎である標準報酬月額から除外されます。結果として、所得税・住民税だけでなく、社会保険料も安くなるのです。
【シミュレーション:月給30万円の人がiDeCoに月額23,000円拠出(給与天引き)した場合】
- 社会保険料算定の基礎となる給与: 300,000円 → 277,000円
- 標準報酬月額: 300,000円 → 280,000円 に下がる可能性
- 年間の社会保険料軽減額: 約35,000円
- 年間の所得税・住民税軽減額: 約55,000円
- 合計の年間軽減額: 約90,000円
※上記はあくまで一例です。制度の詳細は勤務先の担当部署にご確認ください。iDeCoは老後資金準備という本来の目的を理解した上で活用することが重要です。
3. 通勤手当を非課税限度額内に収める
交通費として支給される通勤手当は、所得税法上は一定額まで非課税となりますが、社会保険料の算定においては全額が報酬とみなされ、標準報酬月額に含まれます。
例えば、マイカー通勤で月20,000円の通勤手当が支給されている場合、この20,000円も標準報酬月額の計算対象です。もし、実際の通勤経費が所得税の非課税限度額である15,000円(片道25kmの場合)で収まるのであれば、会社と相談して手当額を見直すことで、標準報酬月額をわずかに下げられる可能性があります。
ただし、この方法による節約効果は限定的であり、会社の給与規定にもよるため、知識の一つとして留めておくと良いでしょう。
社会保険料を節約する際の注意点【デメリットも理解する】
社会保険料を節約することは、手取り収入を増やす上で有効ですが、必ず知っておくべきデメリットも存在します。
1. 将来もらえる年金額が減る可能性がある
厚生年金保険料の支払額が減るということは、将来受け取る老齢厚生年金の金額が減ることを意味します。厚生年金は、現役時代の報酬額(標準報酬月額)に基づいて年金額が計算されるためです。
目先の保険料を節約した結果、老後の生活資金が想定より少なくなってしまうリスクがあります。iDeCoなどを活用し、節約分を老後資金の積立に回すなど、長期的な視点での資産形成が不可欠です。
2. 傷病手当金や出産手当金が減る可能性がある
病気やケガで長期間会社を休んだ際に支給される「傷病手当金」や、産休中に支給される「出産手当金」。これらの給付額も、標準報酬月額を基に算出されます。
- 支給額の目安: 支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日 × (2/3)
つまり、標準報酬月額が低いと、いざという時のセーフティネットであるこれらの手当金の受給額も少なくなってしまいます。
3. 過度な節約は本末転倒
特に残業時間の調整による節約は、本来得られるはずだった残業代収入を放棄することに他なりません。節約できる社会保険料の金額と、減ってしまう収入額を天秤にかけ、生活に支障が出ない範囲で行うことが大原則です。
まとめ:社会保険料の仕組みを理解し、賢く家計を管理しよう
社会保険料の節約は、その仕組みを正しく理解し、計画的に行うことで実現可能です。しかし、将来の年金や万が一の際の保障が手薄になるデメリットも必ず存在します。ご紹介した方法を検討する際は、メリットとデメリットを十分に比較し、ご自身のライフプランと照らし合わせることが極めて重要です。目先の損得だけでなく、10年後、20年後を見据えた堅実な家計管理を心がけ、将来への安心を築いていきましょう。
コメント